2007/07/25

マダム・レインの子供
(吉岡実「サフラン摘み」より)

2007/07/19

【第五幕:断章】レイン・サークル

六人の演者は順に散り、四方八方に置かれた金属パイプを叩きだす。

   一人は四分で抑揚無く
   一人は八分で抑揚をもって
   一人は十六分で抑揚無く
   一人は三分で抑揚をもって
   一人はアクセントで抑揚無く
   一人はランダムで抑揚をもって

   一定時間後、ハーシュノイズがフェイドイン

演者1:
(傘を差し出す)
「雨が降るよ」

演者2:
(傘を受け取らず)
「私に顔はない、あるのは水晶のような、無色で透きとおる物質だ
 絶対的な他者とも違う、離脱した魂の俯瞰でもない」

演者3:
(傘を受け取らず)
「所有と使用のルールが狂い、経済主体性の神話が崩れはじめた
 私に顔はない、あるのはアメーバのような、分離と自滅を繰り替えず物質だ」

演者4:
(傘を受け取り)
「壁の落書きは墨で書け、インキじゃ駄目だ、インキは其処に止まらない
 墨ならば永遠に止まり、警鐘を鳴らし続けてくれる」

2007/07/16


天井につり下げられた鳥。小振りの円形ステージにウッドチップをしきつめ観葉植物を添える。
こういったシンプルだが上品な舞台美術や、中心の一点を軸に四散する影の付け方も参考になる。

某ライブより、音階(キー)の違うアイリッシュ・ホイッスルをダブルで吹くおやっさん。二本だけども結構重層的になるものです。

2007/07/13


画数の多いものは小さく
画数の少ないものは大さく

 演者それぞれが黒板に記していく

視覚的な大小
構成要素の大小

 そのバランスがトータルで同じ
 “大きさ”である事を暗示する

【映像】
一定のリズム、機械音がメトロノームのように響く、 定点のカメラに映り込む人(群衆でない)の歩幅と一定のリズムが重なり、橋と端/墨と隅/後悔と航海などの同音異義語が繰り返される

2007/07/04

罵ることで立ち位置を確かめ合う人々
エトランゼに向けられた辛辣なる視線
闇に映る光景
数多繰り返される奇行
私は影に隠れて見守ることにしよう

2007/07/03

【白痴】鮎川信夫

ひとびとが足をとめている空地には
瓦礫のうえに木材が組立てられ
槌の音がこだまし
新しい建物がたちかけています
やがてキャバレー何とか
洋品店何々になるのでしょう
私はぼんやりと空を眺めます
ビルの四階には午後三時から灯りがともり
踊っている男女の影がアスファルトに落ちてきます

私は裏街を好みます
そこにはジャズがほそぼそとながれ
むかし酒場で知りあった女が
あまり関心しない生活をしています
無意味な時代がしずかに腐敗しています
ある冬の晴れた日に
私はゆっくりタバコをふかしながら
そこを通ってゆきました
私の立派な人生には
いつもそんな汚い路地があって
破れた天井の青空が
いつもいくらか明るいようです

日が暮れかかると
劇場は真黒な人を吐き出します
ふるえる電線の街の
灰いろの建物のしたを孤独な靴音が
もみあうおびただしい影をぬってゆきます
その孤独のこだまのなかには淋しさの本質がちょっぴりあります
十字路には警官が立っていて
これがほんとうの東京の街路ですが
この街のどこもかしこも
光りの痕跡が小さくなってゆくようです
つかれているのは私ばかりではありません
指輪や装身具の飾ってあるジョーウィンドウをのぞいて
うつくしく欠伸(あくび)をしている女がいます
その横顔をぬすみ見ている紳士がいます

春のころ代議士候補が
サラリーマンや労働者を相手に
よく政府の悪口を言っていた広場には
サーカスの看板がこがらしに吹かれています
街路樹の枯枝に
小鳥がとまっていることも見のがせません
サーカスのむすめの写真をながめながら
私は軽い舌うちをしました
もちろん誰にも聞えるきづかいはありません
どうやら私は今年も結婚しそこねたようです

これから私は何をしたらよいのでしょうか?
ひとびとのうしろに行列をして夕刊を買い
今日の出来事を
昨日のように読みすてましょうか?
そしてニュースが私を読みすてたら
喫茶店でコーヒーをのみ
それからあとの計画は
一杯のコーヒーをまえにして考えようと思うのです
一人の若いウェイトレスが
たまたま可愛い瞳をしていたからといって
少しばかり恥をかくようなことがなければよいのです

出典:鮎川信夫全詩集1946-1978/思潮社 (P51 白痴より)